「暮らしをささえた道具たち」のようす c 「暮らしをささえた道具たち」
各時代の生活を支てきた道具類を展示するコーナーである。実物資料を覗きケース内に、復元品を壁面に展示して「わかりやすさ」を強調すると共に、中央の演示台には手に持って感触を実感できる復元品を配置して「体感できる」展示方法を基本とした。
出土文化財(考古資料)は、もとより完全な形で出土することは極めて稀である。さまざまな道具類もその一部であったり部品であったりすることが多く、あるいは金属製品にあっては錆や腐蝕によって無惨な姿になっているものがほとんどである。各時代において機能した本来の姿をこれらの部分資料や変質した資料から推定するのは専門家といえど容易ではなく、多くの博物館等ではこれを避ける傾向にある。しかし、この点が一般来館者にとって考古資料を遠い存在に感ぜしめている一因とも考えられる。学問的には無謀とも言えるが、当施設が「文化財に親しむ」ことを目的の一つとして掲げていることを勘案して現時点で可能な限りのバックデータを収集した上で復元を試みた。
展示資料は、縄文時代の石器、弥生時代の石器、古墳時代から平安時代の木製品と金属製品が中心である。復元品の製作は、展示工事とは切り離し別途展示業者に発注した。復元資料のモデルは別表に示した。
復元資料は製作展示したものの、それぞれの道具の作り方と使い方については説明を要するところである。そこでコーナーの最初にタッチパネルモニターを設置し、代表的道具の作り方をイラストで紹介する解説システムを設けた。いわば電動紙芝居である。
・縄文土器の作り方
・矢じりの作り方
・木のお椀の作り方
・銅鏡の作り方
の4種を各4コマのカットで紹介している。
使い方については鉄斧、鉄鍬、鉄鎌についてイラストパネルで解説したが、当初設計に入れ込まなかったことから財団職員の協力で描いたため多くの道具について使い方を示すことができなかった。なお、イラストに登場する人物は髪が薄く髭があり眼鏡をかけて描かれているが、これも親しみながら観覧してもらうためのひとつの工夫であり、解説時には間違い探しにも利用できるものである。
古墳時代の金属加工技術は、中央政権がふくしま地域に影響を与えた事実を裏付けるもので、且つふくしま地域と中央の格差あるいは技術の差異をも反映する重要なものとして位置付け、製作技術そのものを復元的に行うことが必要と判断した。細部の製作技術復元を含んだ復元製作は一般の展示業者では不可能と判断し、東村笊内古墳群出土資料と鹿島町真野20号墳出土金銅製双魚佩の復元に当たっては、考古学、金工史研究者と金工技術者で組織した文化財と技術を研究するプロジェクトグループに製作を委託した。
金属製品の展示に続いて相馬開発関連遺跡・原町火力発電所関連遺跡調査における重要な成果である製鉄遺跡についての紹介コーナーを設けている。各遺跡で出土した炉壁、フイゴの羽口、鋳造鋳型、取鍋などの実物資料や原料である砂鉄などを展示している。中心となるのは奈良時代から平安時代にかけて営まれた製鉄遺跡における操業時の1/30の縮尺模型で、地形と遺構の位置関係は原町市大船迫A遺跡から取材し、製鉄炉は同じく原町市鳥打沢A遺跡1号製鉄炉(野外展示の実物大復元と同じ)、鍛冶工房は大船迫A遺跡の4号鍛冶炉を含む22号住居跡、木炭窯は大船迫A遺跡12号木炭窯と21号木炭釜をモデルとしてこれらを組み合わせてひとつの模型とした。当時の全国随一と考えられる製鉄基地の一端を紹介している。相馬、原町地域は白河から遠いこともあり、また県教育委員会の発掘調査における最大の成果の一つであることから特に重点的に扱った。
調査成果の一つとして、木炭窯内に残された木炭樹種の変遷を根拠に、当時の遺跡周辺の樹木は9世紀台にほぼ切り尽くされたと考えられる所見が出されている。ここでは、古代における特定工業団地の造成、開発により周囲の自然が壊滅的打撃を被ったこと、同じ場所に現代の工業団地が造成されるという歴史が繰り返される面白さなども学習のねらいとして企図した。
<道具の作り方>解説システムの映像 製鉄遺跡操業時復元模型
導入 復元品 仕様概要 離頭銛 現代の製品。 離頭銛 いわき市寺脇貝塚例を参考。鹿角製。 石槍 飯舘村上ノ台A遺跡例を復元。柄に装着。
1 石の道具 展示品 素材 出土遺跡 時代 ナイフ形石器 石 石川町薬師堂遺跡 旧石器時代 ナイフ形石器 石 新地町三貫地遺跡 旧石器時代 ナイフ形石器 石 郡山市弥明遺跡 旧石器時代 掻器 石 郡山市弥明遺跡 旧石器時代 石錐 石 飯舘村上ノ台A遺跡 縄文時代 石錐 石 郡山市荒小路遺跡 縄文時代 石錐 石 西会津町塩喰岩陰遺跡 縄文時代 石錐 石 須賀川市一斗内遺跡 縄文時代 石鏃 石 飯舘村上ノ台A遺跡 縄文時代 石鏃 石 飯舘村日向南遺跡 縄文時代 石鏃 石 西会津町塩喰岩陰遺跡 縄文時代 石鏃 石 須賀川市一斗内遺跡 縄文時代 石匙 石 飯舘村日向南遺跡 縄文時代 石匙 石 西会津町塩喰岩陰遺跡 縄文時代 ヘラ状石器 石 磐梯町天光遺跡 縄文時代 ヘラ状石器 石 天栄村前原A遺跡 縄文時代 磨製石斧 石 天栄村前原A遺跡 縄文時代 磨製石斧 石 飯舘村上ノ台A遺跡 縄文時代 磨製石斧 石 郡山市荒小路遺跡 縄文時代 磨製石斧 石 磐梯町・猪苗代町法正尻遺跡 縄文時代 磨製石斧 石 須賀川市浜井場B遺跡 縄文時代 打製石斧 石 飯舘村上ノ台A遺跡 縄文時代 打製石斧 石 郡山市荒小路遺跡 縄文時代 打製石斧 石 飯舘村羽白C遺跡 縄文時代 石皿 石 磐梯町天光遺跡 縄文時代 磨り石 石 磐梯町天光遺跡 縄文時代 石包丁 石 鹿島町南入A遺跡 弥生時代 石鏃 石 鹿島町南入A遺跡 弥生時代 太型蛤刃石斧 石 鹿島町南入A遺跡 弥生時代 扁平片刃石斧 石 鹿島町南入A遺跡 弥生時代 石鍬 石 鹿島町南入A遺跡 弥生時代 ノミ形石器 石 鹿島町南入A遺跡 弥生時代 復元品 仕様概要 弓 三島町荒屋敷遺跡出土弓を参考。イヌガヤにカラムシの弦。 矢 日向南遺跡例を参考。頁岩製鏃。篠竹を装着。 石匙 頁岩製。カラムシの紐を装着。 ヘラ状石器 塩喰岩陰遺跡例を参考。柄の装着は北海道江別太遺跡を参考。 打製石斧 上ノ台A遺跡品を参考。直柄を装着し、土堀具形態に復元。 磨製石斧 法正尻遺跡例石斧を復元。滋賀県滋賀里遺跡例直柄を参考復元し、装着。 磨製石斧 三島町荒屋敷遺跡出土磨製石斧と膝柄を復元し、縦斧と復元。 太型蛤刃石斧 南入A遺跡出土石斧を復元。宮城県中在家南遺跡出土直柄復元品に装着。 扁平片刃石斧 南入A遺跡出土石斧を復元。宮城県中在家南遺跡出土膝柄復元品に装着。 ノミ形石器 南入A遺跡例を復元。木製柄に装着。 石包丁 南入A遺跡例を復元。2つの孔に麻紐を通す。 石鍬 南入A遺跡例を復元。木製膝柄に装着。
2 漁労の道具 展示品 素材 出土遺跡 時代 土錘 土 鹿島町南入A遺跡 縄文時代 石錘 石 鹿島町南入A遺跡 縄文時代 ヤス 鹿角 新地町三貫地貝塚 縄文時代 ヤス 鉄 いわき市白岩堀ノ内遺跡 弥生時代 ヤス 鉄 新地町高田遺跡 古墳時代 釣針 鹿角 新地町三貫地貝塚 縄文時代 網針 木 いわき市大猿田遺跡 平安時代 復元品 仕様概要 魚網 軽石製浮子と切目石錘・有溝土錘を付けた網を製作。 ヤス 三貫地貝塚例を復元。木柄に装着。 ヤス いわき市白岩堀ノ内遺跡例を復元し、木柄に装着。 ヤス 新地町高田遺跡例を復元し、木柄に装着。 魚網 相馬市大森A遺跡例浮子を復元。管状と球状の土錘を装着した網を製作。
3 木の道具 展示品 素材 出土遺跡 時代 大足 木 相馬市大森A遺跡 古墳時代 田下駄 木 いわき市大猿田遺跡 平安時代 唐鍬 木 鹿島町大さく遺跡 平安時代 鍬反柄 木 いわき市大猿田遺跡 平安時代 鍬身 木 いわき市大猿田遺跡 平安時代 斧柄 木 いわき市大猿田遺跡 平安時代 鎌柄 木 いわき市大猿田遺跡 平安時代 かけや 木 鹿島町大さく遺跡 平安時代 横槌 木 いわき市大猿田遺跡 平安時代 復元品 仕様概要 大足 大森A遺跡例を復元。外枠は大阪府友井東遺跡例を参考に製作し装着。 唐鍬 大さく遺跡例をいわき市根岸遺跡例を参考に復元。矢吹町上宮崎遺跡出土鉄製鍬先例を復元装着。 反柄鍬 大猿田遺跡例鋤身・反柄を復元し、矢吹町上宮崎A遺跡出土鉄製鍬先例を復元装着。 鉄斧 大猿田遺跡例を復元し、小野町本飯豊遺跡出土鉄斧を復元装着。 鎌 大猿田遺跡復元例に矢吹町上宮崎遺跡出土鉄製鎌先を復元装着。 かけや 大さく遺跡例を復元。 横槌 大猿田遺跡例を復元。
4 木の器 展示品 素材 出土遺跡 時代 曲物側板 木 いわき市大猿田遺跡 平安時代 槽 木 いわき市大猿田遺跡 平安時代 挽物荒型 木 福島市弓手原A遺跡 平安時代 挽物未製品 木 東村佐平林遺跡 平安時代 独楽状木製品 木 いわき市大猿田遺跡 平安時代 刳物桶側板 木 いわき市大猿田遺跡 平安時代 曲物底板 木 いわき市大猿田遺跡 平安時代 復元品 仕様概要 曲物 大猿田遺跡例や曲物甑を復元。 槽 大猿田遺跡例を復元。 刳物椀 刳物皿 大阪府池上遺跡例(弥生時代)を復元。 挽物椀 福島市御山千軒遺跡例を復元。 桶大猿田遺跡例を復元。
5 三角縁神獣鏡の復元 展示品 素材 出土遺跡 時代 三角縁神獣鏡 複製 会津若松市大塚山古墳 古墳時代 三角縁神獣鏡 複製 岡山県鶴山丸山古墳 古墳時代 復元品 仕様概要 三角縁神獣鏡 大塚山鏡をモデルに研究復元で製作。青銅製 鏡鋳型 研究復元で製作、使用。
6 古墳時代の金工技術 展示品 素材 出土遺跡 時代 銅鋺 青銅 東村笊内古墳群 古墳時代 銅釧 青銅 東村笊内古墳群 古墳時代 耳環 青銅 東村笊内古墳群 古墳時代 飾帯金具 鉄 東村笊内古墳群 古墳時代 ? 鉄 東村笊内古墳群 古墳時代 締金具 鉄 東村笊内古墳群 古墳時代 辻金具 鉄 東村笊内古墳群 古墳時代 雲珠 鉄 東村笊内古墳群 古墳時代 鏡板付轡 鉄 東村笊内古墳群 古墳時代 杏葉 鉄 東村笊内古墳群 古墳時代 復元品 仕様概要 銅鋺 笊内古墳群例を研究復元で製作。青銅製。 銅釧 笊内古墳群例を研究復元で製作。青銅製。 耳環 笊内古墳群例を研究復元で製作。青銅製。 古墳時代の馬装 研究復元で製作した笊内古墳群の馬具を古墳時代の実物大馬型に装着。 双魚佩 鹿島町真野古墳群出土例を研究復元で製作。鉄地。
7 鉄の武器 展示品 素材 出土遺跡 時代 直刀 鉄 東村笊内古墳群 古墳時代 鉄鏃 鉄 東村笊内古墳群 古墳時代 鉄鏃 鉄 新地町高田遺跡 古墳時代 鉄鏃 鉄 泉崎村石関横穴群 古墳時代 鉄鏃 鉄 河東町駒板新田遺跡 古墳時代 鉄鏃 鉄 三春町越田和遺跡 奈良・平安時代 鉄鏃 鉄 三春町光谷遺跡 奈良・平安時代 鉄鏃 鉄 いわき市大久保F遺跡 奈良・平安時代 鉄鏃 鉄 東村谷地前C遺跡 奈良・平安時代 復元品 仕様概要 直刀刀装 笊内古墳群例の刀装を研究復元で製作。 刀身 笊内古墳群例を伝統的な技法で製作。 矢 笊内古墳群例を研究復元で製作。
8 さまざまな鉄の道具 展示品 素材 出土遺跡 時代 鋤先または鍬先 鉄 小野町本飯豊遺跡 古墳時代 鋤先または鍬先 鉄 泉崎村滝山前原C遺跡 古墳時代 鉄斧 鉄 小野町本飯豊遺跡 奈良・平安時代 鉄斧 鉄 石川町大内B遺跡 奈良・平安時代 鉄斧 鉄 原町市鳥打沢A遺跡 奈良・平安時代 鎌 鉄 三春町越田和遺跡 奈良・平安時代 手鎌 鉄 須賀川市沼平東遺跡 奈良・平安時代 火打ち金 鉄 猪苗代町登戸遺跡 奈良・平安時代 鋸 鉄 猪苗代町登戸遺跡 奈良・平安時代 鉋 鉄 矢吹町小又遺跡 奈良・平安時代 刀子 鉄 三春町越田和遺跡 奈良・平安時代 紡錘車 鉄 猪苗代町登戸遺跡 奈良・平安時代 復元品 仕様概要 鋤 本飯豊遺跡例の復元品を鋤として装着。柄は宮城県中在家南遺跡例を参考に製作。 鋤 矢吹町上宮崎A遺跡例刃先・大森A遺跡例鋤身を復元し、宮城県中在家南遺跡例を参考にした柄に装着。 鍬 上宮崎A遺跡例刃先を復元し、長野県本誓寺遺跡出土柄復元品に装着。 手斧 本飯豊遺跡例鉄斧復元品に大猿田遺跡出土膝柄復元品を装着。 鎌 大猿田遺跡復元例に矢吹町上宮崎遺跡出土鉄製鎌先を復元装着。 手鎌 沼平東遺跡例復元品に木柄を装着。 火打ち金 登戸遺跡例復元品に木柄を装着。 鋸 登戸遺跡例復元品に木柄を装着。 鉋 小叉遺跡例復元品に木柄を装着。 刀子 笊内古墳群例復元品に、正倉院蔵品を参考にした装具を付ける。 紡錘車 越田和遺跡例を復元し、麻紐を巻きつける。
9 鉄を作る 展示品 素材 出土遺跡 時代 獣脚鋳型 土 新地町向田A遺跡 奈良・平安時代 獣脚鋳型 土 相馬市山田A遺跡 奈良・平安時代 不明鋳型 土 相馬市山田A遺跡 奈良・平安時代 龍頭鋳型 土 新地町向田A遺跡 奈良・平安時代 ふいご羽口 土 原町市長瀞遺跡 奈良・平安時代 土師器杯 土 鹿島町大さく遺跡 平安時代 手捏土器 土 原町市大船さくA遺跡 奈良・平安時代 土鈴 土 原町市大船さくA遺跡 奈良・平安時代 鏡形土製品 土 鹿島町大さく遺跡 奈良・平安時代 臼形土製品 土 原町市大船さくA遺跡 奈良・平安時代 梵鐘鋳型 土 新地町向田A遺跡 奈良・平安時代 ふいご羽口 土 原町市大船さくA遺跡 奈良・平安時代 ふいご羽口 土 鹿島町大さく遺跡 奈良・平安時代 通風管 土 原町市長瀞遺跡 奈良・平安時代 流出滓 鉄 原町市長瀞遺跡 奈良・平安時代