4 分析法

 1) 燃焼赤外線吸収法
炭素と硫黄の定量を行うために、(株)堀場製作所製炭素・硫黄分析装置EMIA-510を使用した。本装置は管状炉式燃焼赤外線吸収法を用いた装置である。分析条件を表1に示す。また、実試料の分析を行う前に、予め表2に示す(社)日本鉄鋼連盟製の鉄鋼標準物質(炭素濃度:0.042〜4.73%、硫黄濃度:0.0057〜0.346%)を用いて分析をし、補正曲線を作成して、試料重量が0.1g程度であれば炭素については1%以下、硫黄については5〜6%程度の誤差範囲内で分析できることを確認してから分析を行った。そのため分析用の試料を手動ダイヤモンドカッターで切り出す際、各試料の重量は0.1g程度になるようにした。

表1 炭素・硫黄分析装置の分析条件
表2 使用した鉄鋼標準物質


 2) 蛍光X線分析法

表3 蛍光X線分析装置の分析条件

 (株)島津製作所製 蛍光X線分析装置EDX−800を使用して表3の条件で分析を行った。鉄塊においては試料切断面の光沢部分、砂鉄及びスラグにおいては試料を粉砕し粉末状にしたものを加圧成型(5t・10秒)したもの、鉄塊(特大)からは黒部分と光沢部分よりそれぞれ分析を行った。
元素の定量には、FP(ファンダメンタル・パラメーター)法と検量線(EC)法の2種類の方法を検討し、主成分元素はFP法により、また、微量元素については検量線法を用いて行った。FP法とは測定強度から理論的に各元素ごとの感度係数を求め、検出された元素の合計で濃度を100%と計算する方法であり、エネルギー分散型の特徴である多元素定量、特に主成分の定量に効果がある分析法である。しかし、微量元素の定量においては全く利用できず、今までのデータから濃度0.1%未満の元素は解析が難しい。一方、EC法は、濃度が既知な標準試料(予め中性子放射化分析法で定量した鉄滓試料)あるいは標準物質を用いて、測定強度と濃度の間での回帰直線を算出して定量する方法で、0.1%未満の元素を定量することができる。しかし、TiとVを定量する場合、TiのKβ(4.93 keV)とVのKα(4.95 keV)が近接するので、共存補正のプログラムにより両ピークを分離し、解析を行わなければならない。

  3)機器中性子放射化分析法
 蛍光X線分析法による定量では、分析の真度が他の分析法より劣るので、一部の試料を機器中性子放射化分析を行い、比較検討を行った。分析試料の中性子照射には日本原子力研究所のJRR-4の研究用原子炉を使用した。放射化した試料のγ線測定は、高純度Ge検出器と4096チャンネル波高分析器からなるγ線スペクトロメトリーにより行い、解析は、本研究室で開発したGAMA03プログラムで解析した。放射化するための中性子照射条件及びγ線測定するための条件を表4に示す。また、表5には元素を定量するために注目する放射性核種とその半減期と放出するγ線エネルギーを示す。放射化分析に使用した試料は、砂鉄、スラグ5、スラグ8、鉄塊A を選んだ。分析に使用した試料量は、砂鉄(79.7mg)、スラグ5(78.5mg)、スラグ8(68.6mg)、鉄塊A(96.6mg) である。元素の定量は、同時に照射した標準試料のγ線強度との比較から算出した。標準試料は、日本鉄鋼連盟製の高純度鉄認証標準物質(JSS 001-3, 001-4, 003-4)、既に定量を行った遺跡スラグ試料、国立環境研究所製の粉塵認証標準物質(NIES 8)、Ti及びV標準液、高純度鉄(Mn極微量)を使用した。なお、Mnの定量においては、59Fe (n , p) 56Mn 反応により56Mnが生成するので、高純度鉄(Mn極微量)を用いてFeからの寄与(Mn 28.5μg/Fe 1g)を計算し、補正を行った。また、Crの定量においては、54Fe (n , α) 51Cr 反応により51Crが生成するので、高純度鉄(Cr極微量)を用いてFeからの寄与(Cr 8.32μg/Fe 1g)を計算し、補正を行った。

 4)組織観察及びEPMAによる分析 
 鉄塊(特大)について、黒部分及び光沢部分から、直径1インチ以内の大きさに切り出したものを型に入れ、エポキシ系樹脂で埋め込み、硬化させた。その後、表6の条件で研磨を行い、顕微鏡で組織観察するとともにEPMA(電子プローブマイクロアナリシス)により組織の画像を測定した。EPMAの装置は、日本電子(株)製のJXA .8100/8200で電子顕微鏡の機能とエネルギー分散型の特性X線スペクトロメトリーの機能を有している。試料の測定は、加速電圧;15kV 、照射電流;1.8 × 10−7 Aの条件で行った。

表6 研磨の条件