2)踏み鞴及び羽口からの送風量
砂鉄投入前で炭のみを炉内に投入し、炉内温度を上昇させた11:00における踏み鞴の吹き出し口でのセンサの圧力変化を図6に示す。周期的な最高及び最低圧力ピークは鞴を一回踏んだときの圧力変化を示し、1分間に25回のペースで風が炉内に送られている。ただし、踏み鞴の吹き出し口は東側と西側にあり、交互に送風されることから、炉内にはその倍の50回/分で送風されている。ここで圧力変化は風速の変化を意味する。
鞴の圧力と風箱の入り口から2番目(No.2)と8番目(No.8)を重ね合わせた結果が図7である。最大ピークの生じる位置はほぼ一定しているが、鞴の最低ピークの際に風箱の送風管との圧力変化が対応していない。また、No.2のセンサは非常に不安定であるため、以降は鞴とNo.8について比較を行った。
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図6 11:00における踏み鞴の圧力変化 | 図7 踏み鞴及び送風管の風量変化 |
図8に6秒間の鞴と送風管の圧力変化を示す。鞴の圧力は実線で示す最低値から上昇し、一旦一定となり、その後最大値を示すが、上昇の時と同様に下降の際に一旦一定となり、最低値まで低下する様式を示す。鞴の実線の圧力は一定で、0の値(基準線:炉内が空の状態でテストを行い、鞴を停止した状態がこの実線になることを確認した)の圧力を示し、この線よりも下側で負の圧力が生じている。鞴と風箱からの送風状況が若干異なる。風箱No.8の送風管の基準線を破線で示す。圧力変化の形態はほぼ同じであるが、鞴の最低圧力の位置(矢印A)で風箱のNo.8は圧力が高くなっている(矢印B)。この現象は鞴には、風の逆流防止弁が設置されているが、風箱から炉内、反対側の風箱までは通じていることが原因と考えられる。一方が風を送った後は風速が低くなるが、反対側風箱送風管からの送風による風圧を受ける。炉内に導入された空気は高温にさらされることで5倍ほど膨張し、炉内圧を上昇させる。この結果、鞴の最低圧力時では風箱の圧力上昇となったと考えられる。
図9に砂鉄と炭を投入してからの11:30における鞴の圧力変化を示す。鞴の送風回数は37回/分(両側で74回/分)である。図10に11:30における6秒間の鞴と風箱の送風管圧力の変化を示す。基準線からの一回の圧力差も11:00では0.05
kgf/cm2であったのが、送風のサイクルが短くなったことで0.08 kgf/cm2程度まで増加している。
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図8 6秒間の踏み鞴と送風管の風量変化(11:00) | 図9 11:30における踏み鞴の圧力変化 |
図11に17:00における6秒間の鞴と風箱の送風管の圧力変化を示す。データのサンプリング時間は0.2秒であるため、やや波形の形状が単純であるが、鞴の踏み数が増えるのに伴い、基準線からの圧力差が大きくなる傾向にある。また、No.8の圧力差は17:00では、0.06
kgf/cm2であったが、踏み数が増した例えば、01:30では、0.08 kgf/cm2に増加している。
ここで、実際の鞴の吹き出し口と風箱の送風管内の風速を(1)式のベルヌーイの式によって求めた(註7)。
V=(2/ρ×ΔP)1/2 (1)
ここで、Vは風速、ρは空気の密度、ΔPは圧力差である。
センサは鞴の吹き出し口径と送風管径との面積比から、鞴で0.5%、送風管で4%を占めるが、誤差が小さいため、計算上無視した。また、空気の断熱圧縮によって4%程度の密度変化が見積もられるが、これも計算上無視した。
また、鞴及び送風管円筒管の中心にセンサを設置していることから、最大風速(V max)は中心で得られ、風量(Q)は(2)式によって求めた(註8)。
Q=0.83×(π/4)×d2×V max (2)
ここで、dは送風管の径である。
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図10 6秒間の鞴と送風管の圧力変化(11:30) | 図11 鞴の送風管の風量の変化(17:00) |
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表1 踏み鞴による送風条件(東側) |
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表2 風箱のNo8送風管の送風量の割合 |
図12に11:00における鞴と送風管の風速の変化を示す。計算の都合上この時間幅の中での最小圧力を0として、補正した。それぞれ風速のばらつきを考慮し、鞴は図中の実線、No.8の送風管は破線を基準線と見なすと、鞴の送風管では最大風速が50m/s、No.8の送風管では、65m/sである。同様に11:30からの鞴の踏み数が増えた場合、鞴の送風管は65
m/s、風箱の送風管は90 m/sと一回当たりの送風速度が高い。
これより、1分間当たりの送風量を求めた値を表1に示す。1回当たりの送風量は0.1〜0.14m3で、一分間では、踏み鞴の踏み数(送風回数)に応じて、時間経過と共に増えている。風箱の送風管からの一回の送風量は0.014〜0.024m3であり、鞴からの送風量の増減にほぼ対応している。
ここで、図13に示す踏み鞴の概略寸法から、一回当たりの送風量の概算を行った。送風管下の位置から踏み鞴の外壁高さは42cmであるが、実際の有効稼働高さを38cmとすると、片方の踏み板下の空間の体積は、0.154m3となる。この空気が100%送風されたとすると、それぞれの時間における送風量は69〜88%であり、センサ圧力から求めた値はほぼ妥当と考える。
本測定では、風箱送風管No.2のデータは採れなかったが、鞴から送られた送風量がNo.8の送風管から送られた割合を表2に示す。風箱から羽口を通して炉内へは8本の送風管で送風されるが、平均的に送風されると1本当たり、12.5%の送風量となる。操業中の羽口の状況がノロかみ、溶損など、また、羽口前方の炉内の状況も変化する。このため、風箱の各送風管の送風量も変化していると思われるが、火入れからの時間が短く、炭のみで操業を行った11:00では約17%であり、以降の送風量の割合も17%前後であることを考慮すると、No.8側(出滓口側)での送風量が多いことが解る。
鞴から風箱へ送風される際には、強い風の流れ(流束)が生じているため、風箱内の全ての送風管の圧力変化が同一とは考えられず、流れが衝突する先端側がより風圧が高くなると考えられる。このため、鞴からの風が直接風箱の壁に衝突するNo.8側の風圧が高くなるため、当然、風量が増加すると考える。
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図12 11:00における踏み鞴と羽口の風速変化 | 図13 踏み鞴の概略図 |