5 製作場所の問題
製作は各自の工房や自宅で行われ、依頼された部分を製作する上では、特に問題のないように思えた。しかし問題は、復元馬への装着と組立工程を最後に予定していたことにより、その共同作業スペースを設定せずに、搬入先である福島県立博物館で最終的に組み上げて終わる計画でいた点にあった。
仮組みの段階で、今まで作っていた鞍が大きすぎて、復元馬にのせる事が出来ないのではないか、金具の位置はこれで良いのか、再検討の必要が多く発生した。サイズの変更によって再度、全体の仕様を検討する調整作業には、多くの時間がかかる予測がたった。
この打開策として、京都で製作中の復元馬の原型を東京に運び入れて復元馬装具と現物同志で合わせる作業に変更を余儀なくされた。
今までの復元製作では、その遺物を観察して情報をよく読みとり、より信憑性の高い復元製作品にすることを重要視して製作をしてきた。
しかし今回のように馬の模型に組み合わせるということは、機能面からディテールを検討し、全体の組み上げ方を想定することから、部品の取り付け位置を再検討することが必要だという事を再認識させられた。
今回は工芸文化研究所の一角を借りて、昼夜を問わず何回も仮組を行い、無事に納品することが出来たが、出来る限り同じ工房(もしくは工房群)の中で一連の作業が出来ることが望ましいと感じられた。今日、交通手段がこれほどにまで発達しても、このような不都合を感じるということは、当時はもっと凝縮された範囲に工房、または工房群が確立されていたと想像する事ができた。
6 グループ体制で
今回の復元研究は、復元品によって、グループに分けて作業を進めた。復元作業を進める初期の段階で、連絡を密に取り合う事が重要である事を感じ、メンバー全員に早く正確に連絡が取れるようにグループ体制を取り、各グループに総括者を置いて製作を効率的に進めた。また、全体の図面製作の統括を鈴木氏にお願いして、事務経理と製作管理を押元が担当し、全ての統括を鈴木氏に、その補佐を押元が担当した。分担は表2の通りである。
表2 復元研究担当一覧表 | ||
項 目 | 分 担 | 担 当 者 |
笊内37号横穴墓出土馬具金属製品総括 (山田) | 鉄地金銅張 鏡板 | 依田 |
鉄地金銅張 杏葉 | 依田 | |
鉄製轡 | 山田 | |
鉄地金銅張 雲珠 鉄部加工 | 山田 | |
鉄地金銅張 雲珠 金銅張り加工 | 依田 | |
鉄製鞍加工 | 高橋 | |
鉄地金銅張 締金具 鉄部加工 | 高橋・伊藤 | |
鉄地金銅張 締金具 金銅張り加工 | 伊藤 | |
鉄地金銅張 辻金具 鉄部加工 | 山田 | |
鉄地金銅張 辻金具 金銅張り加工 | 依田 | |
鉄地金銅張 飾帯金具 鉄部加工 | 伊藤 | |
鉄地金銅張 飾帯金具 金銅張り加工 | 依田 | |
鉄製座金具 | 高橋 | |
その他飾り金具 鉄部加工 | 伊藤 | |
その他飾り金具 金銅張り加工 | 依田 | |
座金 | 伊藤 | |
変形金具 | 高橋 | |
鋲留め・調整 | 山田・伊藤 | |
鋲留め 鉄部加工 | 山田 | |
鋲留め 金銅張り加工 | 依田 | |
漆塗装 | 依田・伊藤 | |
馬具木製品総括 (押元) | 木製鞍 木部加工 | 小西 |
木製鐙 木部加工 | 小西 | |
漆塗装 | 五味 | |
馬具皮・布製品 (押元) | 馬具革・布製品一式 | 押元 |
馬具調整・組立総括 (押元) | 馬具調整・組立 | 押元・山田・伊藤 |
笊内6・26号横穴墓出土 直刀総括 (押元) | 刀身制作 | 押元 |
鞘制作 | 小西 | |
金属製刀装具 | 押元 | |
漆塗装・その他・組立 | 五味・押元 | |
笊内15号横穴墓出土 耳環総括 (高橋) | 耳環制作一式 | 高橋 |
笊内21号横穴墓出土 刀子総括 (五味) | 刀身制作 | 高橋 |
鞘制作 | 小西・五味 | |
刀装・漆塗装 | 五味 | |
笊内6号横穴墓出土 鉄鏃 (山田) | 矢一式 | 山田 |
笊内37号横穴出土 銅腕,41号横穴墓出土 銅釧 総括 (押元) | 銅鋺・銅釧 鋳造制作 | 長谷川 |
銅鋺・センガケ加工 | 長谷川・外注 | |
真野20号墳出土 金銅製双魚佩総括 | 金銅製双魚佩金属部分制作 | 松林・黒川 |
装具 | 松林(外注) | |
鋲制作 | 山田 | |
目玉&ワッシャー | 依田 | |
組立 | 山田・伊藤 | |
アマルガム鍍金撮影実演 (高橋) | 高橋 |
7 日程と製作期間
今回、約2年と十分に製作時間を取ったにもかかわらず、最後は時間的にきびしい状況に追い込まれた。
工芸製作には、どうしても時間がかかる工程がある。例えば木材の材料探し、木材の乾燥、漆の乾燥、刀身の研磨等どうしても省くことのできない時間である。その為には、出来るだけ早く製作に入れる様に、早期に仕様を決定する必要がある。これは完璧な図面が必要ではなく、最初の仕様図面があってこそ試作に取り掛かれることを、認識していただきたいと感じた。
従って、初期の製作図面は仕様書に寸法の入ったものから製作を始め、模型や試作品を製作しながら、考古学研究者とともに、復元品と製作図面を完成させる時間を多く取るべきではないかと考えた。
参考文献
(1) 鈴木勉『〔38〕復元研究プロジェクトチームの運営について』本報告書所収