2 遺跡データベースについて
1)はじめに
福島県内には、1万3千カ所以上の遺跡があり、平成6年福島県教委発行の「福島県遺跡地図」にその場所についても公表されている。しかし、「遺跡地図」は発行部数も限られており、一般の県民が遺跡の情報に触れられるのは新聞等のメディアでの紹介や各地で開催されている現地説明会や展示会等に限定される。
このような中、まほろんは遺跡の情報を含めた文化財情報を恒常的に提供する役割を担っている。遺跡データベースは、このような中、福島県内にある遺跡の基本的なデータを網羅し、さらに調査情報と合わせて、インターネットを通じて広く県民に公開することを第1の目的としている。これらの目的を達成するために、遺跡の情報である表を構成する項目については、かなり細かい要素まで網羅出来るように努めた。
また、遺跡の情報検索のみに利用するだけでなく、さらに一歩進んで、データベースを利用することにより、直接、遺跡の現地に立てることも想定した。具体的には遺跡地図画像の提供で、画面で確認が出来るだけでなく、それをダウンロードし印刷することが可能なシステムとなっている。
このような機能の他に、地方公共団体や財団の文化財担当者や考古学研究者が、検索結果を自分のPCに取り込んで利用出来るように、CSVのダウンロード機能も持たせてある。これによって、知ろうとする遺跡のデータを副次的に業務や研究に利用することが可能となる。
2)入力元のデータと入力方法
表の入力には、平成6年県教委発行の「福島県遺跡地図」と県教委文化課保管の遺跡台帳および県内発行の調査報告書を利用している。県教委発行の遺跡地図の巻末の一覧表には、遺跡の基本データが掲載されており、そこから基本項目は入力している。基本項目にないもの、たとえば地形や水系、標高、緯度・経度などのデータは、国土地理院発行の1/25,000地図を読みとる形でデータを起こしている。標高・緯度・経度のデータは、遺跡地図に記載されている遺跡の中心を計測しており、範囲の大きな遺跡については、場所により若干齟齬が出るかも知れない。また、所在地のよみがなについては、財団法人国土地理協会発行の「JIS都道府県市区町村コードによる全国町・字ファイル福島県」を参考とした。調査台帳や遺構数のデータは、調査報告書記載の内容から直接データを起こしている。
画像データは国土地理院発行の1/25,000の地図を利用している。複製許可申請は、平成11年度に提出し、その年に複製許可が下りており、地図画像の全てに許可番号を標記している。地図画像は、スキャナーで1/25,000の地図を取り込み、それに「遺跡地図」の場所を入れ込む形で入力を行っている。遺跡地図のバックの画像には、デジタル地図を利用する方法もあったが、著作権やクオリティーの問題から紙の地図を直接利用している。
3)表の構成
遺跡データベースに関連する表は、遺跡基本表・調査台帳表・発行文献表・遺構数表・遺構集計表の5つの表から構成されている(356ページ以下の表を参照)。
遺跡基本表は、福島県内に所在する遺跡1件1件に対する基本データが入力される表で、入力項目は67項目となっている。入力項目は、遺跡名など遺跡固有データ、所在地など位置データ、時代・種別など性格データ、要保存面積など管理データ、地形・水系など地形関係データ、概要説明などの詳細情報データ、文献コードなどリンク系データの7項目に大別される。遺跡基本表の項目選定にあたっては、独立行政法人奈良文化財研究所で公開されている不動産文化財データベースで取り扱われている項目をある程度カバー出来るように努めた。また、検索時の利便性を考え、水系コードや地方コード等独自のコードも項目に加えている。
調査台帳表は、福島県内で発掘調査と試掘調査が実施された遺跡で、報告書の1報告について1件とした。したがって、調査が実施されても報告書が刊行されていない遺跡は入力の対象外となる。また、複数の遺跡が収録されている報告書では、収録遺跡ごとの件数となっている。入力項目は一部遺跡基本表とダブる形となっているが、これに加えて調査年や面積・遺物等このテーブルに固有の項目がある。特に福島県教育委員会調査分については、収蔵資料と密接な関係を持っており、それを探すためのキーテーブルとなっている。
発行文献表は、遺跡に関する報告書等の文献のデータが入力される表で、基本的なデータは文献データベースの文献種別表とリンクしている。当初、遺跡基本表に含める予定であったが、今後関係する文献の数がかなり増加することが見込まれるので、別表として独立させた。ただ、文献名等の基本データ入力項目は、検索の利便性を考え文献種別表と重複させている。
遺構数表は、報告書に掲載されている遺構1つ1つについての遺構の種類と時代のデータが入力される表である。調査台帳表の中に遺構概要として簡略化して取り込むことも可能であったが、時代・種別からその数を検索することを可能とするため、別表とした。
遺構集計表は、遺構数表を元に1調査件あたりの時期と遺構を集計したものである。当地域における一般的な遺構を時代と組み合わせて各項目としている。この表に関しては、データ入力システムのプログラムによって、自動生成・集計されるようになっている。
4)画像データの構成
画像データは画面表示用と印刷用の2種類の解像度のものがある。画面表示用が15×15pの72dpi、印刷用が15×15pの200dpiである。遺跡の位置は「福島県遺跡地図」を元に入力している。遺跡単独の範囲では、周辺遺跡との関係が不明であるため、該当遺跡範囲を赤で、周辺の遺跡範囲を水色で表示してある。入力した画像データは高解像度JPEG画像としてサーバー内の別フォルダに保存している。遺跡表の地図画像を示す項目には、それぞれの画像名とそれが入っているフォルダ名が入力されている。遺跡データベースについては、本来GISとの相性が良く、遺跡範囲のデータとバックの地図画像は分離した方が、有効に管理や公開が行える。しかし、構築段階で有効なGISシステムが見つからなかったのと、背景画像の著作権の問題から今回の導入は見送った。
5)コード化した分類項目
(1) 時代
時代については、別紙「時代コード表」の通り3ケタの数字としてコード化した。平成12年の前期旧石器ねつ造問題発覚以前に作成したものなので、前期旧石器の時代区分もある。それ以降は、時代と時期・世紀を組み合わせて作成している。考古資料の年代については、その特定が難しいものも多く含まれているが、それについては時期の上限と下限の入力項目を設定することで対応することとした。
(2) 遺構種別
遺構の種別については、別紙「遺構コード表」の通り4ケタの数字としてコード化した。遺構の機能的な性格と形状については明確に分離しておらず、それらを併記する形態となっている。発掘調査で検出される遺構は、遺跡の全体像や周辺の遺構の状況から性格・機能を特定できる場合もあるし、形状と時期のみの情報しか取り出せない場合もある。したがって、形状だけの分類や機能的性格だけの分類では、データへの現実的な対応は不可能で、併記する形がベターと考え、そのようにした。
(3) 水系
福島県内の河川について、1/25,000の地図を元に4次河川まで対応可能な階層として、独自に8ケタのコード化を行った。系列河川名とコードの双方を入力しており、直接、河川名からの検索と水系からの検索の双方が実施できる。
検索例
入力データ:摺上川、阿武隈川、10110000、10000000
河川名から検索:SELECT * FROM IBT_ISEKI WHERE SUIKEI1 = ‘摺上川’
水系から検索:SELECT * FROM IBT_ISEKI WHERE SUIKEICODE BETWEEN 10000000 AND 19999999
6)検索のインターフェイス
検索画面の流れは以下となっている。基本的に5つの階層からなり、遺跡からその調査内容まで表示可能としている。
→4'文献一覧
1検索入口→2検索結果一覧→3詳細情報表示→4調査歴一覧→5調査歴詳細
リンク→遺物データベース
→写真データベース
検索入口画面については、遺跡名称・場所・時代・種別・調査歴・地形・水系の6つの項目から検索可能な画面とした。検索可能な項目はこれ以外にもあるが、遺跡を理解する上でわかりやすい項目に絞った結果、上記6項目となった。また、前章の理由からフリーワード検索を避けて、選択タイプを多くするようにつとめた。
検索結果一覧画面は、遺跡名・市町村名・調査歴の有無の3つの基本項目のみの表示とした。この画面から検索結果詳細情報のCSVファイルをダウンロードすることが出来る。
詳細情報表示画面は、位置関係の情報と地図をリンクさせて表示する画面で、関連文献と調査歴への入り口の画面でもある。遺跡の直感的理解を想定して項目や画像の選定にあたっている。遺跡地図画像のダウンロードもこの画面から可能となっている。
調査歴一覧画面の項目には、調査機関・調査年・面積・文献と遺構数表を元にした主要遺構が表示される。この画面では、遺跡の調査成果の概要を知ることが可能であることを目指しており、一覧表に示されたデータの詳細をCSVファイルでダウンロードすることも可能である。
調査歴詳細画面は、前の一覧に表示された情報の他に遺物・時代、時代と関連づけられた遺構数が表示される。遺跡データベースの中では、最も詳しい調査内容をのせた画面で、さらに詳細に調べたい場合は、この画面を手がかりに報告書の現物にあたることになる。また、福島県教委調査の遺跡については、調査台帳表の調査台帳コードをキーに遺物データベースと写真データベースにリンクする形となり、それらの情報を見ることも可能である。
→URL:http://search.mahoron.fks.ed.jp/cgi−bin/bunkazai?fn=iseki&clear=true
7)他のデータベースとの関係
遺跡に関連するデータベースとしては、既にネット上公開されている全国遺跡データベース(独立行政法人奈良文化財研究所URL:http://acd.nabunken.go.jp/Open/iseki/keii.html)がある。遺跡データベースの項目は、全国遺跡データベースの入力項目のほとんどが網羅されている。語句やコード等に相違がある部分に関しては、データを変換することによって内容を合わせることが可能である。
全国遺跡データベースは、全国的な遺跡の基本的な管理簿を目指したもので、調査の内容等詳細については、各都道府県の対応にまかされている。それに対応するのが調査台帳表や遺構数表であり、ある程度の遺跡の内容は理解可能と思われる。
入力データとしては、報告書に添付されるようになった報告書抄録がある。報告書抄録は報告書毎につけられた文献そのもののデータと、遺跡の調査内容データが組み合わされて記載された表である。遺跡データベースに関連する部分は調査内容データの方で、こちらの項目はほぼ調査台帳表で網羅されている。ただ、遺構内容については、別に遺構数テーブルを設定しており、抄録より更に詳しいデータを検索することも可能である。文献そのもののデータは、文献データベースで作成した表で網羅されている。
8)今後の課題
遺跡の情報は、分布調査によって新たに発見されたり、開発に伴って消滅したり、日々変更される情報である。現在のシステムでは、入力元地図に平成6年発行の地図を利用し、報告書も刊行後に入力、登録の流れとなっており、最新の状況には対応出来ない。
白河館のデータベースの内、遺跡データベースは特に情報提供の側面が強く、遺跡の管理的なデータについては、教育庁文化課で本年度にGISシステムを利用して本格的に構築しているところである。
基本的なデータについては、ある程度の相互乗り入れを可能とすることによって、新しい遺跡情報の情報管理−情報提供が連携可能となると思われる。また、同時に市町村からも最新の情報が入れられる仕組み作りも必要と思われる。
GISのシステムは、大変魅力的なシステムであるが、本格的な導入を考えるとGISサーバーを新規に構築する必要がある。そのためには、現在利用している地図画像データとの関係も整理する必要があると思われる。