〔35〕 真野古墳群A地区20号墳出土金銅製双魚佩の鋲と組立について 山田 琢
1 出土品の観察
鋲は銅製で、本体と同じように鍍金が施されていた。2種類の双魚佩のうち甲では5本、乙では6本の鋲が使用されていた。観察では2枚の半円扇形の部品で本体と錦帯を挟み込み、鋲かしめを行い組み上げられていた事がわかった(写真1)。かしめは座金を使用せず、扇形の板に開けられた孔部分で鋲足を押しつぶすようにして行われていた(写真2)。鋲の直径は、ケースの上から計測したため正確ではないが、鋲頭部の直径約3.2o、高さは1.7o前後ではないかと思われた。錦帯を固定している側の鋲頭の曲面形状は、やや側面の立ち上がりがはっきりしており、本体側固定用の鋲よりも角形をしているように思われた(写真3・4)。X線写真の観察では、鋲孔は丸孔で直径約1.5o、鋲足は約1o角の方形断面であった。
2 鋲の製作について
1)制作方法の推測
鋲は、鋲足の太さと鋲頭の直径から考え、銅棒を材料として鍛造成形によって製作されたものではないかと推測できた。鋲頭の成形は、変形の魚々子鏨による型打ち鍛造で製作されたのではないかと考えた。甲乙合わせて11本の鋲があるが、鋲頭の曲面形状に微妙に相違が見られるものの、直径には大きな差が無いことから、同一の工具の使用によって製作したのではないかと考えた。
2)鍛造実験
魚々子鏨の製作のため、鋲頭の形状と同じ坊主鏨を先に製作した。坊主鏨は5o角の鏨用鋼材(s45c)を用いて製作した(写真5)。鏨材の先端部を直径3.2oの円柱形とし、先端形状を鋲頭と同じ曲面になるようにヤスリで切削加工を行った。先端部は紙ヤスリで鏡面仕上げとした。この鏨を原型に魚々子鏨の製作を行った。魚々子鏨は直径12oの丸鋼材(s45c)を用いて製作した。丸鋼材の先端をアセチレンバーナーで加熱し、断面の中心に坊主鏨を打ち込んで半球形の窪みを成形した。窪みの深さは鋲頭の高さと同じになるように鍛造を行った。先端部に窪みをつけた鏨材をヤスリで成型して変形魚々子鏨を製作した。
鋲の製作実験は2o角の銅棒を使用した。鋲足部分は平らな金床と金槌を用いて鍛造製作を行った。鋲足部は材料の先端部分を1o角の太さで約20oの長さまで金槌で鍛造した。鋲頭の型押し鍛造を行うために鍛造した1o角の鋲頭部分の先に長さ2oほど、鍛造前の2o角の材料部分を残してニッパーで切断した。切断された材料はマッチ棒の様な形状であった。
魚々子鏨で型押し鍛造を行うため、材料を万力に挟んで固定した。万力の口金は、細い棒材が固定できる様に溝が彫られているものを使用した。鋲頭となる2o角の部分を万力の口金より突き出した状態で固定し、魚々子鏨を被せて型鍛造を行った。ここで成形される鋲頭の形状を出土品の鋲の拡大写真と比較し、魚々子鏨に改良を加えていった。
3)実験での問題点
魚々子鏨の形状は実験の段階で改良を加えたことで、問題なく鋲頭を形成することが出来るものとなった。しかし、鍛造の際に鋲頭と鋲足の中心がずれることがしばしば起こった(写真6)。これは鏨の当て方を慎重に確認しながら、徐々に鍛造を行うことで防止する事が可能であった。製作すべき鋲の数が大量で、量産を前提としなければならない場合には、鋲足と魚々子鏨の中心がずれないようにする治具を準備すべきだが、今回は少量のため慎重に鍛造を行うことにした。
3 鋲の製作
実験で製作した工具を用いて鋲の復元製作を行った。2o角の銅の棒材の先端に1o角の鋲足をあらかじめ鍛造し、もとの角材部分を2oの長さで残してニッパーで切断した(写真7)。万力の口金に鋲足部分だけを挟み、しっかりと固定した。このとき鋲頭部分を鍛造する2o角の部分のみを、口金の上部から突き出すように固定を行った。突き出した材料に魚々子鏨(写真8)を被せ、鋲足と鏨の中心がずれないように慎重に型押し鍛造を行った。鋲頭部分の面積を確保出来る状態まで材料が潰れたことを確認し、魚々子鏨を回すようにして鋲頭部の曲面の鍛造を行った(写真9)。万力から鋲を外し、型からはみ出したバリ部分を、細目ヤスリで削り取った(写真10)。鋲頭の表面は#800の紙ヤスリを用いて仕上げを行った。表面の鍍金は電気メッキを行い、鋲足部分を再度ヤスリで研削しメッキをはがした。
4 組み立てについて
1)組み立て方法の考察
双魚佩は2枚の半円板で帯の先端に本体を装着していたと思われた。復元品は錦帯の端部に装着された状態で想定復元を行った。本体と半円板には共孔加工により組み付け用の鉄孔が開けられていた。2枚の半円板には錦帯を挟んで固定するために3本の鋲孔が開けられていた。復元された錦帯は筒縫いされた状態であり、鋲は布地を3枚重ね合わせたものを貫く必要があった。
甲で5本、乙で6本の鋲をかしめるためには、どの鋲からかしめを行うかが重要だと考えた。半円板と本体の鋲孔は、共孔加工によって同じ位置に開いているはずであるが、端から順にかしめを行った場合、鋲孔にずれが生じる可能性は高くなると思われた。また柔軟性のある錦帯を固定しなければならないため、鋲孔のずれは最小限にとどめる必要性があった。そのために鋲かしめの順番を考えなければならなかった。
半円板部分は金銅板の厚みが薄いため、魚佩本体に先に鋲留めを行った後でも帯を挟み込むために金銅板をそらせて2枚の間に隙間をつくることは容易だと考えた。しかし本体固定用の鋲を完全にかしめてしまうと、錦帯を留めるための鋲孔にずれが生じた場合に修正ができなくなってしまうと考えられた。そこで、半円板と本体の3枚の金銅板が外れない程度まで鋲を仮留めした状態まで組み立てを行いその後から錦帯を挟み込むこととした。仮留めを行う時には錦帯固定用の3本の鋲も半円板の鋲孔に嵌めておくことで、鋲孔のずれを防止できると考えた。鋲かしめの順番は、実験用の錦帯がないため実験を行うことは出来なかった。
2)組み立て
推測した工程順で双魚佩の組み立てを行った。鋲かしめは平らな金床の上で行い、鋲足は先端が直径3oの円形の平らな面を持った打ち鏨でかしめを行った。金床には、鋲の鍍金を傷つけないように鹿皮を敷き、その上でかしめを行うことにした。
はじめに本体と2枚の半円板を重ね合わせ、鋲で仮留めを行った。本体を2枚の半円板で挟み、鋲を全ての鋲孔に差し込んで鋲頭が金床の上に当たるように伏せて置いた。甲は本体と半円板を固定する2本の鋲を1本ずつかしめていった。乙は3本の鋲で半円板を固定するため、3本のうち中央の鋲のみで仮留めを行った。3枚の部品をしっかりと金床に押さえつけ、金銅板から1.5oの長さで鋲足を切断した(写真11)。鋲部分を金床に押さえつけるように固定し、切断した鋲足の先端を鏨でつぶして仮留めを行った(写真12)。本体を仮留めした後、残りの鋲を抜きとり、2枚の半円板の隙間に錦帯を挟み込んだ。錦帯に鋲を刺して貫通させなければならないのだが、鋲足の先端が平らなため錦帯を貫くことは出来なかった。そのため錦帯に刺さりやすくするために、鋲足の先端をニッパーで斜めに切断し加工した(写真13)。こうすることで3本の鋲は錦帯を貫き半円板に鋲を差し込む事が出来た。鋲を差し込むことは出来たのだが、鋲足に錦帯の糸が引っかかり鋲足側の鋲孔から出てきてしまった。この糸は刃物を用いて切断することが出来たが、鋲孔部分から錦の布がはみ出た状態となってしまった(写真14)。はみ出した布は鋲足をかしめることで見えなくなった。全ての鋲を差し込んで仮留めを行い、半円板と本体のずれがないことを確認した後、鋲のかしめを行った。鋲足を折り曲げないように鏨と鋲足をまっすぐに据え込むように垂直に当てて叩いていった。そうすることで鋲孔の大きさいっぱいに鋲足部分が広がり、かしめを確実に行うことができた(写真15)。