〔26〕 笊内21号横穴墓出土刀子の鞘・柄の製作工程    五味  聖

1 木地
@ 鞘はヒノキの柾目材を使用した。二つの板材を用意し、双方の面を平面に削り出した後、刀身の形と、厚みに合わせて内側を刳り、接着剤で接合した。接着には、膠材などの天然素材も使用することを検討したが、強度や扱い易さの点から、今回はエポキシ樹脂を使用した。接着後、紐を通すための穴を開け、図面に沿って外側を削り、整形した。

A 柄には、ムクの柾目材を使用した。当初、次のような方針がたてられていた。2つの板材で茎を挟んで接ぎ合わせるのではなく、1材に穴を開けて茎を挿し込む方法である。ドリルで穴をあける、細いノミを造り、少しずつ内側を突き崩し掻きだす、細い棒状の焼きごてを作り木地を焼いて穴を開ける、などの工夫を凝らしたが、差し込み口に当たる柄の木口の部分に大きな穴が開き、刀身と柄の間に隙間ができる、見栄えが悪いなどの問題が生じた。そこで、今回は、継目が分かりにくいよう、木地を二つに割り、茎の幅と厚みに合わせて溝を彫り、柄に納めた後、木地を貼り合わせた。展示だけではなく、観覧者が実際に手に取るなどの使用法も考えて、刀身が抜けないように、茎はエポキシ樹脂で柄に固定した。(写真1)
2 紐巻きと漆塗り
@ 鞘、柄ともに漆塗りで仕上げることとした。鞘、柄ともに生漆を同量の灯油で希釈して塗り、余分な漆をふき取る作業(地固め)を3回繰り返し、乾燥させた。

A 鞘に巻く麻紐を用意し、漆塗り後の麻の縮みを防ぐために、麻紐を水にさらして乾燥させた後に使用した。生漆と、小麦粉を水で練ったものをよく混ぜ合わせ、溶剤で延ばしたものに麻紐を含浸させ(写真2)、生漆と糊を混ぜたものを鞘にのせながら、鞘に巻き付けた(写真3)。紐の端を留めたのち、このまま1週間ほど乾燥させた。乾燥後、紐の隙間に木粉・米糊・漆を混ぜたものを擦り込むようにして、表面をならした上で再度乾燥させた(写真4)。
3 上塗り
 鞘・柄ともに、素黒目漆(生漆に熱を加えてよく撹拌させることで漆液中の水分を減らし、粘度と透明度を高めた漆)を漆刷毛で薄く塗り、乾燥させた。乾燥させた後、表面を軽く研磨し、同じ塗りの作業を2回繰り返して完成とした。

写真1 柄と鞘の装着
写真2 麻紐の準備
写真3 鞘に麻紐を巻きつける
写真4 鞘の表面仕上げ