〔24〕 笊内6号横穴墓出土大刀の柄の紐巻きについて     五味  聖

1 柄の漆塗膜の断面の観察から
 笊内6号横穴墓出土大刀の柄の部分に巻かれた紐は、1本の紐を螺旋状に巻き付けているよう見受けられるが、剥落した漆塗膜の断面をよく観察すると、中心に径の太い紐を、その左右に同じ径の細い紐を2本ずつ配して、5本で断面が山形となるような構造を持っていることが確認された(図1)。中心に巻かれた紐のすぐ横に巻かれた細い紐は、漆塗膜の中に埋まっており、表面からは中央と一番外側に巻かれた3本の紐が確認でき、その紐の縒りの方向は、中央の紐と脇の紐とでは逆になっている(図2)。目測で太い紐の径は約1.0o、細い紐は約0.5oである。紐と紐の間は、漆とは異なった下地材が充填されており、紐巻きの後、下地を施して表面を整えてから漆が塗られていることも確認できた。紐の材質は、明らかでないが、縒り合わされた繊維の断面も観察できた。

図1 漆塗膜の断面の模式図
図2 漆塗膜の表面から見た紐の縒りの方向

2 復元工程
 正倉院宝物の一つ、黒作大刀外装(中倉8第13号)の復元製作が平成8年度に行われている。この報告(正倉院紀要第20号、平成10年)によれば、柄巻きには、模造対象品の類品観察からその材質を絹紐と断定し、復元にも絹紐を使用している。細い絹紐2本の間に太い絹紐1本を挟んで3本一組にしたものを把頭より右巻きに巻き締めたとある。
 今回の復元で紐巻きに使用した紐は、麻紐を使用した。その理由は、一つはオリジナルに使用された紐の材質が確定できないこと、二つめには、作業者にとって漆を使用する場合、材料として麻が使い慣れていたことによる。
 麻紐は、二種類の太さのものを用意した。作業者は、オリジナルと同じ形態に、5本の麻紐を一度に巻き締めていくことは困難と考え、まず、中心となる太い方の麻紐を巻き付け、漆である程度柄の上に固定してから、左右に細い麻紐を添わせる方法で巻いていった。麻紐にはあらかじめ溶剤で希釈した漆を麻紐に含浸させ、小麦粉を水練りして漆と合わせた膠着材(麦漆)で接着する乾漆の技法をとった。砥粉と地の粉で下地を付け、軽く研磨した後に、下塗りに松煙を混ぜた黒色漆を塗り、中塗り、上塗りには素黒目漆を塗って仕上げとした。